ワトスン君、きみはしみ抜きについて詳しい医者ではないのかね?
若いホームズ
ワトスン博士

な、なんだよいきなり。

 
 
僕がいきなりでないことがあったかね?
若いホームズ
ワトスン博士

どんな突発的だらけの人生なんだきみは。

 
   

ともかくきみに聞いているのは、君がしみ抜きが得意かどうかなんだ。

若いホームズ
ワトスン博士
と言われてもなあ、服が汚れたら普通にクリーニングに出すしなあ。  
   

クリーニング…そうか、その手があったか!

若いホームズ
ワトスン博士 
なんなんだよいったい。  
   

実はだね…。

ホームズ
ワトスン博士
……。  
   

…君は、口の堅い医者かね。

ホームズ
ワトスン博士

基本的に君といる時の話は他人にしないようにしているよ。

 
   

…どういう意味だこの野郎。

ホームズ
ワトスン博士
どういう意味か心当たりがあるからおこってんだろこの野郎。  
   

…まあいい。ともかくこの話は他言されると非常にやばい話なのだ。

ホームズ
ワトスン博士
なんだよもう。  
 
実は今回の事件は、さるたいへん高貴な筋と関係があるのだ。
ホームズ
ワトスン博士

というと…王室か…?

 
 

それは僕の口からは言えない。だが、イギリス王室ハノーヴァー家、つまり現女王ヴィクトリア陛下の後はサクス=コバーグ=ゴータ家となるイギリス帝国の君主たる一族と関連があるとだけ言っておこう。

ホームズ
ワトスン博士 

もう言ってるじゃねえかよ。

 
 
依頼者はさる大銀行の頭取だ。これも詳しくは言えないが、とてもお金持ちだと言っておこう。
ホームズ
ワトスン博士

はあそれで。

 

実はさるやんごとない家の後継者…仮にここでは皇太子殿下と言っておこう。

ホームズ
ワトスン博士
仮にの意味を調べてから言えよ。  
 

この頭取にさる高貴な人物が、たいへん価値のある緑柱石がちりばめられた宝冠を抵当に、短期の融資をもとめたのだ。

ホームズ
ワトスン博士

ふうむ、そんな方法で金を工面しなければならないとは、王族もたいへんだな。

 
 

何しろ王族だからな、我々庶民が考えたこともないような交際費が必要なのだ。

ホームズ
ワトスン博士
さらっと王族って言っているな。  
 

しかしそれが何であるかは、頭取もさすがに言わなかった。

ホームズ
ワトスン博士
まあそりゃそうだろう。  
 

ただ、これだ。

ホームズ
ワトスン博士
なんだこのしみだらけのきったない布は。  
 

頭取が事情は言うわけにはいかないが、といいながら、そばにあったテーブルクロスにさらさらっと、融資が必要な事情を書いたのだ。

ホームズ
ワトスン博士
その頭取も君と同じ病気か。  
 

そうなると僕は、そんなくだらないゴシップに興味はない高潔な人間だろう?

ホームズ
ワトスン博士
だろう?と言われても。

 
 
そばにあったローストビーフのソースとコーヒーと紅茶をテーブルの上にぶちまけて、読めないようにしてやったのさ!
ホームズ
ワトスン博士
うわあ。

 
 

それで僕が緑柱石の宝冠を見つけ出して、犯人も逮捕した後…

ホームズ
ワトスン博士

おいさらっと解決すんな。

 
 

ふと気がつくと、僕のポケットに不思議なものが入っているじゃないか。

ホームズ
ワトスン博士
なんだよ。  
 
ポケットを探ってみるとなんということだ!あのテーブルクロスだ!
ホームズ
ワトスン博士
気づかないうちに入ってるもんじゃねえぞ。  
 

これはあれだ、おそらく僕の深層意識の中に紛れ込んでいた、王族の汚らしいゴシップを覗いて、のぞき見て、満足したいという下卑た欲望が生み出した、一種の奇跡なんだよ!!


ホームズ

ワトスン博士
最悪の土壌から生まれた奇跡だな。  
 

というわけなんだよワトスン君。

ホームズ
ワトスン博士
なにがだ。

 
 
このテーブルクロスからシミを取り抜いて、頭取の筆跡だけを読み取る方法はないものかね!
ホームズ
ワトスン博士

ゲスいなあ。

 
 

なあ頼む!後生だ!この通りだ!!

ホームズ
ワトスン博士

…そこまで必死になられると逆に引くなあ。まあいいよ。ともかくこういうのはだな、おーいハドスンさん

 
 

とたとたとたとた。
何ですかワトスンさん。

ハドスン夫人
ワトスン博士
ちょっとこの布のしみ抜きをしてくれないかい。
 
 

…!そうか…!!

ホームズ
ワトスン博士

こういうことは専門家に任せるんだな。

 
 
そうか!これは…いわゆる…!
ホームズ
ワトスン博士

そうそう。

 
 
主婦の知恵!主婦の知恵だな!
ホームズ
ワトスン博士

でかい声で言うようなことじゃないけどな。

 
 

できましたよできましたよ
ワトスンさん。
とたとたとたとた

ハドスン夫人
ワトスン博士
うわっ、もうできたのかい。ありがとう。  
 

見せろ!そこをどけ!見せろおおおっ!

ホームズ
ワトスン博士
うわあっ。  
 
なになに…。タラ3尾、ジャガイモ300ポンド、ラディッシュ5株、食用油…
ホームズ
ワトスン博士
え。  
  

こ、これはお買い物メモ!

ホームズ
ワトスン博士

えっ。

 
 

なんてことだ!我が光輝ある大英帝国皇太子殿下が、はじめてのおつかいに!!

ホームズ
ワトスン博士

おつかいで融資を受けるな王室。

 

 

無事解決!
次回のホームズの活躍があればお楽しみに!

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