さあ、ワトスン君、ここが事件現場だよ。
まったくもって不可解だが奇妙な事件だよ。

え、そうなのか?
えらく展開が速いな。
ここはどこなんだい?

 
 
見ればわかるだろう。
いやそういわれてもなんだか真っ暗だよ。 
   

あ、そうか、目隠しのために箱を
かぶせておいたんだ。
おーい、レストレード君、とってやってくれ。

ちょっと待て、
何のためにこんなことを。

 
   
世の中の出来事で理由と結末がきっちりと整合していることのほうが珍しいよ。
 
やかましい。
うわっ、ほんとに殺人現場だっ!
 
   

そうなんだよワトスン君。
これ以上にないほど血溜りの殺人現場だよ。

この広い居間の床一面に血がひったひたにあふれているぞ。
一人の人間の血だけとは思えないほどだなあ。
 
   
しかし、被害者は一人なんだよ。
あ、ホプキンス君、そこ歩くと濡れるよ。
さあ僕の手製のカヌーにお乗り。

持ってるのかよカヌー。

 
   
被害者の名前は
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン。
誰だい。 
   

君のような普通の人間には知られてないだろうがね、このロンドンで最も凶悪かつ極悪な人物だよ。

そんなにひどい男なのか。 
 
別名恐喝王ミルヴァートン、彼に弱みを握られて破滅した人間の数は数え切れないほどです。
しかもその手段が巧妙なので今まで警察も手を出せなかったんです。

ふーん、まあそんな悪い奴ならいつ殺されても不自然ではないな。

 
 
ワトスン君っ!
 
わっ!な、なんだよホームズ 
 
たとえ相手がどんな男だろうと、殺人という手段に出るのはもってのほかだっ!
それが現代の法治国家の大英帝国というものじゃないのかねっ!
ま、まあ確かにそうなんだが…。 

それをよい目的のためならそういった不法行為が許されるとしたら、現代の社会秩序はどうなる!?社会が崩壊することで人々が幸せになれるのかっ!!ひとつの小さな正義のために多くの人々が苦しむことになるなんて、そんなことは絶対に許してはならないことだっ!

ど、どうしたんだい、ホームズ。 
 
……それはそれとしてこの血はまったく固まっていないな。
そうなんですよ、通報があってからもう二時間ぐらいたっているのにまったく固まっていないんです。 
 
うーむ、血液というのは空気中に出ると血小板の働きで固まってしまうものだが。
ミルヴァートンは血が固まらない病気、血友病だったのかな。
そういった情報は特にないんですが…
 
 

あれ、ホプキンス君、なんだか
背がのびたんじゃないかね。

え、そうですか? 
 

ああ、神は全てのものを変えてしまう。
ホプキンス君の美しさをそのままに時間の中にとどめておいてはくれないのか、しかしながらこうやってホプキンス君に見下ろされている感じ…ああ、これはこれですごくいいものだ…

ちょっと、だんだん血の水位が上がってきてませんか!? 
 

ああ…すごくごぼがぼごぼがぼがぼがぼぼぼぼがぼ…

はやく、早く窓を開けてっ 
 
ふうう、な、何だったんだ今のは。

すっかり服が真っ赤になってしまいました。

 
 
あれ、ミルヴァートンの死体が無い!
無くなってます!
ははあ、おそらく自分の血で流されてしまったんですね。
自業自得とはこのことですね。
 
 
たぶん違うぞ。
とりあえず流れていった場所を捜索して…。 
 

わははははははは、真っ赤真っ赤真っ赤!

突然なんだホームズ。 
 

僕は何も言っていないぞ
真っ赤真っ赤真っ赤!

なんだよ…わっ!コートの下だっ。
ミルヴァートンの死体がへばりついてるっ!
 
 
えええええっ!
うわあ気持ち悪いっ!とってとってとって!
ふはははははははっ!
ロンドン一の名探偵もだらしの無いことだっ!
ホームズも真っ赤!スコットランドヤードも真っ赤!
真っ赤真っ赤真っ赤!
 
 
ミルヴァートン!生きていたのかっ!
ふふふ、最近のメイドはだらしが無い。
人が体から大量の血を流して呼びかけにもまったく応答しなくて、心臓が止まっていて、瞳孔に光を当てても瞳孔が動かず、耳に水を入れても目が動く前庭反射が無いぐらいで死んだと思うのだからな!
 
 
いやなんで生きてるんだっ!

そのようなことはどうでもいい、
人の屋敷に主人の承諾も無く入ってきてこのように部屋を荒らすとは、言語道断ですな。
スコットランドヤードとホームズさんに損害賠償を請求いたします。

 
 
うわああさすが恐喝王だあっ!

ホームズさん、落ち着いてくださいっ!
私たちはメイドの通報によって、法律で決められた範囲内で捜査活動をしたんです!損害賠償請求される筋合いは無いですっ!

 
 
んーっ!
警部さん…ホプキンス警部さんですねええっ!?
そ、そうですよ…。
 
 
あ・な・た…

うう…

 
 
朝食に、パンを食べましたねええーーッ!?

うううっ!どうしてそれをっ!

 
 

いいんですかああーーっ!?
そんなことをしてえええーーーっ!?
ただですむとでも思っているのですかあーーーっ!?

あ、あああああっ!

 
 

落ち着くんだホプキンス君!
これが奴の手口だ!
僕たちは大英帝国人なんだから
朝食はごはんと納豆と味噌汁じゃなくて
パンを食べるに決まっているじゃないか!

あなたもいいんですかーっ!?
 
 

ううっ!

そういうあなただって…
朝食に…
パ・ン・を…食べましたねえええええーーっ!?
 
 

うわああああっ!なぜそれをおおおっ!

いいんですかあーっ!?
そんなことをしてええええーっ!
 
  

うわあああああああ
あの時は仕方がなかったんだああっ!

しっかりしろお前らっ! 
 

ふふふふ、また後日、法廷でお会いしましょう!

そ、それだけはっ!それだけはっ! 

 

なんてことだ!つづくらしいぞ!
次回のホームズの活躍があればお楽しみに!

襟裳川ミステリ文庫トップへ

SAKANAFISHホームへ