| おーよしよしよしよし。 |
なんだいその犬は。
| いや実はこの下宿の前に捨てられていたんだ。 |
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とにかく名前をつけなくてはな。 |
名前ねえ。
| ムニエルがいいかな、それともソテーがいいかな。ユッケがいいかな。 |
| とんでもない。この犬はこれから僕のパートナーとなって、海や山せましと駆け巡る予定なのだよ。食ったりなどはするものか。 |
| ただこうしてウィスキーやワインやコカインに入れて風味付けぐらいには使ったりするがね。わあああっこらっ暴れるないてててててて。 |
あっ逃げた。
| くそう、なんて犬だ。 出汁としての自分の存在を認識して いないのか。 |
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犬教育と言うものをもっと政府は考えて行くべきではないのかと深く憂慮しているわけだよ。 |
| 仕方ない。この猫風味のウィスキーをあおって無聊を慰めよう。 |
| とたとたとたとた、 ホームズさんホームズさん お客様ですよとたとたとたとた。 |
スコットランドヤードのホプキンスです。
| おおおおっ！ ホプキンス君っ！ 相変わらず美しいっ！ そのびしょぬれの犬を抱えた姿が またいいっ！ |
あ、この子ですか？
私が飼ってるんですけど、
こちらに来たときに私、ヤードに忘れ物を
した事に気づいたんです。
それでこちらの家の前にこの子をつないでから
ヤードに戻ったんです。
その間に びしょぬれになってて…。
このへんだけ雨でも降ったんですか？
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はっはっは、降ったんじゃないかなあ。 |
| じつに芳醇な香りと味わいをあわせもつなあ…。 |
ホームズさん、ニール・ギブソンという
方をご存知ですか。」
| あの南米で金鉱をほりあてまくったという 成金かい。 |
そのギブソン氏の妻のマリーアさんが、
ギブソン氏の屋敷の敷地内で射殺されていると
連絡が入ったんです。
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ほおう。 |
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うーむミステリーだな。ミステリーだよ。 |
夫人が撃たれたのがただの拳銃じゃないんです。
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ただの拳銃じゃない？ |
夫人の体内に残されていた拳銃弾から、
シュタウフェンベルグ社のベルタB483だと
断定されたんです。
| ベルタB483！ だったら見つからないのはますます持って ミステリーだ！ |
なんだい、そのベルタB483っていうのは。
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シュタウフェンベルク社が作った |
| 直径10メートル重さ25トンもあるのだから隠そうとしても隠せるもんじゃないなあ。 |
ましてや引き金を引くのもたいへん困難です。
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そうだな、ベルタB483の引き金を引くのは大の男が200人がかりでやっとらしいからな。 |
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しかし、となるとどうしてダンバー嬢が容疑者だとみているのかね。まあ若い女性と富豪となればだいたい見えてはくるが。 |
| おおっ！ さすがホプキンス君！ まったく無理のない場面転換だよ！ |
| この池にかかった橋の上でマリーア夫人は死んでいたのか。うーむ。 |
しかしそんな弾丸が当たってよくマリーア夫人だと判別できたねえ。
| マリーア夫人が全長30メートルぐらいありましたから。 |
…化け物屋敷じゃないか。
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何しろ大英帝国出身の女性ではなかったらしいからな。異国にはどんな女がいても不思議ではないよ。 |
というかそんな奴の存在を知らなかった自分のほうに驚きだよ。
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撃った後にこの池に投げ込んだという仮説も成り立つな。 |
| うーむますますミステリーだよ。 |
というか、その化け物の夫人ぐらいしかその何とかという銃を撃てないんじゃないのか。
| ワトスン君、捜査に先入観は禁物だよ。 |
いや先入観も何もなあ…。
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とにかくここはウィスキーでも飲んで気分を落ち着けよう。 |
わうっわうわうわぅっ！
あっ！やめなさいテリーヌ！
ホームズさんに噛み付いてはだめっ！
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ああいたいいたいいたいっ！ |
狂犬病で死んでしまえ。
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あっ！ |
あっ！
テリーヌっ！どこへ行くのっ！
そっちは池っ！
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ばうばうばうばうっ |
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ややっ、池の様子が変だっ！ |
テリーヌっ！そして、そのくわえているのは
ベルタB483！さらにひもで石とつながれている！
そうか、夫人が拳銃自殺した後に、石の重さでベルタB483が池の中に引きずられて落ちるというトリックだったんですね！
