6月だよ6月。

まあそう念をおされなくてもいいがね。

 
 
6月の花嫁という言葉もあるが、
君の奥さんは元気かね。
いや、僕はまだ結婚してないが。  
   

なんだね。清純派のつもりかね。
そんな見栄などテムズ川の底に
鍵をかけた箱に入れて沈めてしまえ。

アイドルじゃないんだからそんなところで
見栄をはるわけないだろうが。

 
   
忘れもしない、あの奇奇怪怪な事件、
「四つの署名」事件の依頼者をてごめにして嫁にしたのを忘れたとは言わせないぞっ!
 
てごめって。
それになんだ「四つの署名」事件って。
 
   
…まだ起きてないのか?
まったく心当たりがないぞそんな事件。  
   
うーむしまった。僕としたことが、記憶の回路に少々変調をきたしてしまったようだ。

記憶だけなのかなあ。

 
   
普通は過去に起きたことを記憶しているものだが、僕の優秀な灰色の脳細胞は時として未来に起こったことを記憶してしまう。
じゃあ未来が見えるってことかい。  
   

下卑た言い方をすればそうなるね。

じゃあ僕の将来の伴侶となる人は
どんな人だったかちょっと聞かせてくれないか。
 
 

聞かせてもいいがね、
未来を知ってしまうというのは退屈な
ものだよ。いいのかね。

いいよ。
まったく信じてないから。
 
 
僕の目の前に見えたその女性は…
そうだな…長い髪をしていた…
髪の色は黒いな…。これは…東洋人
だったな。
 
東洋人かね。  
 
そして…うーん、ひどく酒に強いな。
酒豪かね。それはちょっとなあ。  

いや、酒に強いというか、
酒を飲めば飲むほど強くなるというか。

は?  
 
そして棒を鎖でつないだものを振り回したり、
ワイヤーを使って空を舞ったり、 空中で連続した蹴りを相手の胸にたたきこむようなインパクトのある女性だよ。
そりゃ中国のカンフー使いじゃないか。  
 
髪の毛は三つ編みだったなあ。
それは辮髪じゃないのか。男だろ。  
 

で、五重の塔のてっぺんで君を待っていたことは覚えているが。それぞれの階には別の嫁が待っているのだが。

そんなのはてごめにするのも一苦労だぞ。  
 

とたとたとたとた。
ホームズさん、ホームズさん、
電報が届いてますよ。
とたとたとたとた。

何か事件かね。  
 

うむ、ここのところすばらしい事件も
なかったからな、とりあえず期待をするだけ
してみるよ。

えーとなになに、
「シャーロック・ホームズ先生、先日事件の依頼をしたものですが、その後ご連絡もなく、いったいどうなっているのでしょうか。」

 
 
事件の依頼?はて?

未来の記憶よりも過去の記憶をはっきりさせた
ほうがいいな。

 
 

うーんまったく思い出せない。
とりあえず思い出すまでその電報を
読むのはやめてくれないか。

読まなきゃ思いだす手がかりもないだろうが。  
 
仕方ないな。とりあえず読んでくれ。
「結婚式当日に消えた私の婚約者ですが、いまだに消息すらありません。」結婚式当日に姿を消すなんて奇怪な事件だねえ。
 
 

そうかねえ。僕の兄のマイクロフトは結婚式の跡に夫婦ともども謎の失踪を遂げたがねえ。

謎の失踪って、この間もマイクロフトさんとは会っただろうが。  
 

まあ失踪は一週間ほどだったんだがね。

そりゃ新婚旅行だろう。  
 
まったくもって謎のマカデミアナッツだよ。
えーと「とりあえず本日そちらに向かいますので、なにとぞよろしくお願いいたします。メアリー・サザーランド。」  
 
うーむ、いったいどういう依頼をするつもりか、、 興味は尽きないね。

…ほんのちょっと前に依頼の内容は言ったはずだが。

 
 
そうだったかなあ?

本格的な脳の検査をしてもらったほうがいいんじゃないのか。

 
 

まあ君の忠告はほどほどに聞き流しておくよ。

ホームズさん。

 
 

…幻聴か…まあこれも聞き流しておこう。

いや…僕も何か聞こえたような…。  
 
……ワトスン君の声がしたような気もしたな…

いや、それは確実に僕は言ったんだが。

 
 

ああ…いったい何が真実で何が悪やら…

ホームズさん、私です、メアリー・サザーランドです。
事件の詳細についてお話しようと来たんですが。

 
 

て、天井から声が!
なぜ天井裏に潜んでいるんですかっ!

私はタイピストと忍者をしているんです。それで。  
 

それでって。

とにかく彼の姿が見えなくなってから私は不安で不安で。

 
 

僕たちもずいぶんと不安なんですがね。

ホームズさん、何とか彼を見つけ出してください!
 
 

…まあいいですが、とりあえずその婚約者の方の情報を…。

はい、彼とは職場で知り合いまして。  
  

…タイピストのほうですか、それとも…

私が連判状を手に入れて林を駆け抜けていると、彼ったらいきなり手裏剣を投げつけてきて。  
  やっぱり忍者ですか…。
いまでも彼にどこかから見つめられているような気はするんですが…  
  あの…結婚式というのは決闘の間違いでは…

 

無事解決!
次回のホームズの活躍があればお楽しみに!

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