【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に仕立て
上げようとする。
その演出のために女性をバイトで雇おうとするが、
なんとその女性がアイリーン・アドラー嬢だったのだ。
アドラー嬢はホームズ達に挑戦的な言葉を吐き、
去っていった。
ホームズ達は亡命事件の謎を解くために
闘志を燃やすのだったが、なんと衆人環視の場で
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が失踪してしまったのだ。
そしてボヘミア国首相に犯人からの手紙が届く。
「皇太子の身柄は我々の手の内にある。
3日の間の完全なる静寂を望む・K」…
その翌日、ホームズは首相を聖ヴィート教会近くの
民宿に呼び出す。
なんとプラハの地下に広がる巨大迷宮があると
いうのだ。今、ホームズ達の地下迷宮への
冒険が始まる!

 
  

え、入らなきゃいけないのかい?

入らないでどうするっ!

 
 
迷宮を見つけたら入らなきゃ
いけないものかね。
まあそれは一概には言えないが。  
   

だいたい
冒険というのはめんどくさいよ。

普通の男だったら冒険を目の前にすると
わくわくするものだがねえ。

 
   

僕はなにしろ慎重さと大胆さを
兼ね備えた名探偵だからね。
普通の男とは違うのだよ。

冒険野郎が言われそうなことだが
慎重さと大胆さ。
 
   
冒険野郎というと
どこかに閉じ込められて脱出する
マクガイバー的な野郎のことかい?
20世紀初頭の大英帝国の人間に
マクガイバーのことを言うな。
 
   
とにかくだね、何で僕が迷宮に
入らなきゃいけないのかその辺を
はっきりさせてくれないか。

この迷宮の中に事件の真相に迫る鍵が
あるんじゃないのか。

 
   
むろんあるさ。
あるのなら入れよ。  
   

どうしてもそうしなきゃいけないかね。

だいたい君がこの迷宮を発見して
中に秘密があると言ったんだろう。
君が入らないで誰が中の秘密を
見つけるんだ。
 
 

うーむ。気が進まんなあ。

さっきから一国の首相であるボヘミア国首相が
ずっと中で待ってるんだぞ。

 
 
何で首相閣下が中にいるんだ?
 

君が入れといったんだろう。

 
 

そうだったかな。

首相直属の宮中護衛部隊を極秘に動員させて
その上首相本人を迷宮に入れてだね。
 

まあそれは時の流れというもので
やむをえないものじゃないかね。

それにホプキンス警部だって入ってるんだし。  
 

そ、そんな薄暗いところに
自分から入っていくなんて!
危険だっ!危険すぎるっ!
ホプキンスくーん!

だからお前も入れっ!  
 

まあそうせっつくな。
ちゃんと武装はしているだろうね。


ちゃんと護衛部隊は拳銃を持っているし
僕だってこのとおり。
 
 

足りないな。
だれかはがねのつるぎを持っている
奴はいないか?ちゃんとそうびして
おかないと意味がないぞ?

そういうことも20世紀初頭の人間に
言うんじゃない。

 
 

そしてこの僕は前人未踏の
地下迷宮に乗り込んでいくのだった。
一抹の恐怖と、そして抑えきれない
秘密への好奇心で、僕の心は
高ぶっていたのだった。

だから前人未到にしてはみんな待ってるって。  
 

下らんことを言うもんじゃないよ。

あの、お話は終わりましたか。  
 
ああ、首相閣下たいへんお待たせして
申し訳ない。
聖ヴィート教会、カレル橋、グナイスト
侯爵邸、それに王宮の黒ツグミの間に
ちゃんと護衛部隊を配置していただけたの
でしょうね。

ああ、君の言うとおりの準備をさせておいたよ。
しかしまた一体なぜあんなことを…

 
 

その答えはこの奥にありますよ。
ぬふふふふふふ。

こういう時の探偵って
性格悪いなあ。
 
 

自分だけが真相を知っている
という時の喜びといったらほかに
変えがたいものがあるのだよ。

どう進めばいいんですか、ホームズさん。  
 

ああ、そこを右、そして左。
そしてまっすぐだ。

この迷宮の内部がちゃんとわかって
いるのかい?

 
 

心配には及ばないよ。
ああ、そこを右。

はいっ。
 
 
………。
どうしたんだい?
 
 
できればホプキンス君には
指図するよりされたいなあ…。

やかましいっ!

 
 
しっ。ワトスン君。
このような地下道では声が反響して
遠くまで届くんだ。
大声はやめたまえ。

大声出させるようなことを言うなよ。

 
 

さてここだ。

なんですか、ここは、
地下なのに不思議に明るいですね。

 
 

そう、ほんのりと上からさす光が、
ここだけを別世界のように照らしている…

まるで、この地下の世界から、
天へと通じる通路のように…
 
 
この地下を照らしているんだ…
 

気色悪いやりとりはやめてくれ。
上のほうは地上に通じているのかい。

 
 

そう、ちょうど王宮の地下だ。

な、なんですって?
こ、この迷宮は、王宮の地下にも
通じているのですかっ!?

 
 

そう、黒ツグミの間の真下だ!

ええっ!?
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が消えたところ
じゃないか!

 
 

よく覚えていたな、ワトスン君、
そのとおりだ!

と、いうことはヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子は、この地下迷宮から、
姿を消したということなのかい!?

 
 

しっ、ワトスン君!
耳を澄ますんだ!

えっ?
 
 
ぐぬううううう…
 
な、なんだい、このかすかに聞こえる
不気味な声は?
 
  

思い出すんだ、ワトスン君!
あの時、ホプキンス君をさらった大男の
声だ!ほら、いたじゃないか!
なめたけの着ぐるみを着て、
僕の横でドナウ川踊りをしていた時だ!

うう、思い出せない…  

 

あまり今回でも真相が明らかにならなかったが、
つづく!

襟裳川ミステリ文庫トップへ

SAKANAFISHホームへ