【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に仕立て
上げようとする。
その演出のために女性をバイトで雇おうとするが、
なんとその女性がアイリーン・アドラー嬢だったのだ。
アドラー嬢はホームズ達に挑戦的な言葉を吐き、
去っていった。
ホームズ達は亡命事件の謎を解くために
闘志を燃やすのだったが…。

 
  

本日のあらすじは前回までの
どのあらすじよりも頭に入る
よいあらすじだな。

そうかなあ。

 
 
人生において何よりも重要なのは
よいあらすじと食事だよ。
普通の人生であらすじに出くわすようなことは
あんまりないんじゃないか。
 
   

それは古い考えだよ。
モードの発祥地として知られる
巴里でもよいあらすじを身につけた
パリジェンヌ達の姿が見られるよ。

身につけるものかあらすじは。

 
   

もちろんそんな女達は
この僕のバトルステッキアタックで
蜂の巣にしてやったけどね。

乱暴だなあ。

 
   

神聖なあらすじをアイシャドゥや
マニキュアのように女どもがわが身を
飾るのに用いられるのに我慢が
ならなかったのだよ。
いわばこの僕は正義の代行者、
地上における神の代理人なのだよ。

君の言っていることは八割がた
支離滅裂だよ。
 
   

…その僕に逆らい、地上を汚濁と
退廃で埋め尽くそうというあの男…
けっして許すことは出来ねえっ!

誰?

 
   
このこぶしで、俺のこのこぶしで、
必ず奴の、奴の息の根をとめて
やるうううっ!!
いつの間に暴力路線に転向したんだ。
探偵らしく頭脳で勝負したらどうだね。
 
   

うむ、まあそのとおりだな。
この僕の天才的な頭脳をもってすれば
奴など私が手を下すまでもないよ。

この現代において暴力的な
解決というのは何ももたらさないからな。
 
 

この僕の脳をよくデミグラスソースで
煮込んで、奴に食わせれば、
たちまちのうちに…。

まあたしかに君の脳みそなど
食うもんじゃないよな。

 
 

こうしてやればあの禍々しい、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子の名を見なくても
よくなるというわけだっ!
はっはっはっはっ。

 
なんだ奴というのは
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子のことか。
 
 

ああそうともさっ!
あんなヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子なんぞ、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子の角に頭をぶつけて
死んでしまうがいいのだっ!

自分自身の角に頭をぶつけるのも
器用な話だな。
 

くそう、こうやっている間にも、
あの麗しのホプキンス君が
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子の毒牙に
かかりやしないか心配でたまらんのだっ!

だからみんながみんな君みたいな
変態じゃないんだよ。
ホプキンス警部が宮廷の人々に気に入られた
からこそ、皇太子主催のパーティーに呼ばれたり
してるんだ。情報収集にはとても好都合じゃないか。
 
 
ぐうううううううううううううううう。
ああ、いまいましいいまいましい。
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子もボヘミア国も
アイリーン・アドラー嬢も、なにもかも
いまいましいわっ!!
そういえば、宮廷に潜入してから
ずいぶんたつが、アドラー嬢の
うわさすら聞かないな。
 
 

そういう女だよ、あの女は。
人目につかないところに隠れているが、
時折、彼女らしいメッセージを
人々に鮮烈にたたきつけるのだ。
その姿はそう…まさに…
ハガキ職人というのにふさわしいな。

だからハガキ職人なんだろ。  
 

しかし結局何もわからんというのが
実情だよ。
あの女のねらいもね。

考えたんだがね、ホームズ。
アドラー嬢の狙いは
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子の、ボヘミア国王戴冠と
関係があるかもしれないと思うんだよ。
 
 

…ほう、
それはいったいどうしてだい?

ハガキ職人というからには
きっとなにかの演出も考えていると思うんだ。
一国の国王の戴冠式なんかは、
何かやるのに絶好の機会じゃないかね。
 
 

ふむ。

国王の戴冠式となれば
全世界からの注目があつまるだろう、
世界中の新聞や雑誌のトップをかざる、
これこそハガキ職人の究極の夢なんじゃ
ないのかね。
 
 

ほう。

…どう思うかね、ホームズ。  
 

ほう。

聞いてるのか、ホームズ。

 
 

へえ。

おい。

 
 

はあ。

いいかげんにしろおっ!
 
 

ぐはあっ!

黙って説明してやれば
いい気になりやがって!

 
 
だ、黙って説明してんじゃなくて
しゃべって説明してるんじゃないのかっ!
やかましいっ!
人がせっかくミステリらしい展開を
しようというのに、その態度はなんだっ!
 
 
ぐはああああああっ!
おちつけっおちつけっ!
くっ、久しぶりに発言をいい加減に
流されたものだから完全に錯乱しているな。
やむをえん、これでも喰らえっ!

ぐほっ!げほっげほっげほっ、
はっ…僕はいったい今まで
何をしていたのだろう…。

 
 
ふう、さすがは僕の天才的な頭脳。
一口でワトスン君を正気にさせたぞ。
はっはっはっはっは。
とにかく、戴冠式には何らかの警戒が
必要なんじゃないかね。
 
 

まあ、このボヘミアの戴冠式が
どんなにめちゃくちゃになって
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子の顔がつぶれようとも
知ったことではないが、
アドラー嬢の思うがままになるというのが
腹立たしい。
一応、戴冠式のことを調べてみるのも
よいかもしれないな。

ホームズさん!ホームズさん!
 
 

おおっ!ホプキンス君!
無事だったかあっ!

無事ではありませんっ!
たいへんなんです!
 
 
な、なにいいいいいいっ!
あの汚らしいヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子になにかされたのかっ!
そうなのかっ!
だとしたらあいつとワトスン君を殺して
僕も死ぬっ!

何で僕まで。

 
 


違うんですよっ、
大変なんですよっ!

 
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子がっ!
 
 

奴とワトスン君を殺して僕も死ぬっ!

いなくなったんですっ!

 
 

なにいっ!

い、いなくなったって、どうしてっ!?

 
 

愛の力だ…愛の力が生んだ
奇跡だ…!

みんなが見てる前で
すうっと消えたんですっ!
 
 
神よ…。
おい、これは大事件だぞっ!
どうするホームズっ!
 
  


とりあえずナスだっ!
ナスに割り箸をつけて
馬の形にするんだっ!

それは神に捧げるものじゃないっ!  

 

なんとヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が!
はたしてヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子失踪の犯人は!?
つづく

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