【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に
仕立て上げようとする。その演出のために
女性をバイトで雇おうとするが、なんとその女性が
アイリーン・アドラー嬢だったのです。

 
  

誰だお前はっ!

それどころじゃないってっ!

 
 
ああそうだったっ!
君だっ!アイリーン・アドラー嬢!
なんですか?
シャーロック・ホームズ先生?
 
   

うぬうっ!なぜ僕の名を!?

もちろん高名な探偵であるあなたのお名前は
存じておりますわ。
探偵雑誌「アリバイ」のグラビアもよく拝見させて
いただいてますわ。

 
   

うぬうっ!

そして高名な変態探偵としての
変態雑誌「二本松」のグラビアも
拝見させていただきましたわ。
 
   

うぬうっ!

何のグラビアを飾ってるんだっ!

 
   


それよりも一体、
何の用なんだっ!

あら、私を探していたのではなかったの
ですか?

 
   
うぬっ。
ですからこのように
履歴書ももってきたのですわ。
 
   

バイトのほうかっ!

ホホホホホ。
冗談ですわワトスン博士。
もちろんシャーロック・ホームズ先生と
お会いするためですわ。
 
 

そ、そうか。
しかし僕のことも知っているのか。

ヒゲ医者専門雑誌「赤」の
「街で見かけたヒゲ医者のコーナー」で
お見掛けしたしましたわ。

 
 

なんだその雑誌わっ!

 
ホームズ先生、
はるばるボヘミアまで来られたのは、
私をロンドンまで連れ戻す、ためですか?
 
 

ああ、そのとおりだ。
…だが、君は帰るつもりは無いのかね。

今のところは、ございませんわ。  

今のところは?
おかしなことを言う。
まあいい。 質問させてもらおう。
君は自分の意思でボヘミアに
やってきた、そういうことなのかね。

もちろん、ですわ。  
 
だったら普通の出国手続きを
とればいいだろう。
なぜあんな面倒くさい方法で
亡命なんかしようとしたんだ?
それを調べるのが
探偵のお仕事ではございませんの?
 
 

ぬう。
まさか
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子と文通コーナーで
交際を始めたというわけでは
ないだろうね。

ホホホ、ご想像にお任せしますわ。
けれどもそれは、今回のことと関係は
あるようでないようなことですわ。
 
 

ぬぬうっ。
この女、一筋縄では行きそうにもないぞ
ワトスン君!

やっとミステリーらしくなってきたなあ。  
 

ならばだ、
君は一体何のために
ここに来たのだ?
まさか本気でバイトをしようとして
きたわけでもあるまい。

ホホホホ、警告ですわ。
一刻も早くボヘミア国を経って、
ロンドンに帰られたほうがよろしいという。
 
 

ほう…
脅迫かね。

いえ、そんなつもりはございませんわ。
 
 

もし帰らない、といったらどうかね。

その時は…
どうなるかは、女性の私の口からは
とてもいえませんわ。
 
 

な、なにいいっ!
するとあんなことやこんなことにっ!

落ち着け変態探偵っ!

 
 

…まあ、それはおいておいて、
ホプキンス君をさらおうとしたのは
君のさしがねかね。

……。
まあ、そのようなことがあったとしても
不思議ではないと思いますわ。

 
 

ぬうっ。ということはあの
変態野郎は君の仲間かね。

ご想像におまかせしますわ。  
 

わかった。
君が何を考えているかは知らんが、
その陰謀もすべてこの僕が叩き潰して
やると言うことだけは覚えておいてくれ。

わかりましたわ。
では、私が警告した、ということだけは
覚えておいてくださいませね。
失礼いたします。
 
 
ああ、僕は記憶力はいいほうなので、
ね。
アイリーンさん。  
 
…なんでしょう。

モリアーティ教授が、
裏で糸を引いているのですか?

 
 
ご想像に、おまかせしますわ。
…ふう、帰ったか…。
ますます事件が何がなんだか
わからなくなってきたな。
 
 

はっきりしたことはただ一つ、
アイリーン・アドラー嬢が
いけすかん女だということだよ。
まったく女というのは度し難くていけない。
ぶつぶつ。

まあハガキ職人というのは多かれ少なかれ
どこかゆがんでいるものだよな。
 
 

それにしてもさすがホプキンス君だ。
だれもが忘れかけてたモリアーティ教授の
質問をするなんて。
さすがスコットランドヤード一の
聡明にして可憐なホプキンス君だよ。

いやですわ、ホームズさん。
警察官として当然のことですもの。
 
 
ああ…そんな瞳で見つめないでくれ…
アイリーン・アドラー嬢のことなんて
どうでもいい…そんな気持ちになって
しまう…

…まあそれはともかくだ。
どうするかねこれから。

 
 

問題はだ。
アイリーン・アドラー嬢が何を考えているか。
モリアーティ教授の知能と
アイリーン・アドラー嬢の知能が合体すれば、
ボヘミア国の一つや二つ、簡単に
消し飛んでしまうだろう。

 
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子はアイリーン・アドラー嬢に
利用されているだけなのかもしれないな。
 
 

ことがボヘミア国だけですむなら
我々も知ったことではないが、
やがてドイツ帝国を動かし、
我が大英帝国の危急存亡の事態に
陥れる可能性も否定できないからな。

これはますますボヘミアの宮廷に
潜入して、様子を探る必要がありますね!

 
 

うむ、そうだな。
よし、潜入工作を開始だ!

でもなあ、我々の存在は
アイリーン・アドラー嬢に知られて
しまったわけだ。
そううまく潜入できるものかね。

 
 

はっはっは、そのことに関しては
心配ないよ。

え、どうしてだい。

 
 
大丈夫だという保障はこれさ。
え、これは…
 
  
ちゃんとアイリーン・アドラー嬢の
履歴書の特技の欄に
「変装を見抜く能力無し」と
書いてあるだろう?
書くなそんなことっ!  

 

おそるべし
アイリーン・アドラー嬢!
果たして彼女の狙いは!?
つづく!

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