続々々々々々々々々々・智恵子(小)

はじめに

この物語はある作家(家族の強い要望により匿名)の智恵子(小)との深い愛憎の様子を作家本人が記した日記である。
作家自身は発表の場を求めていたが、家族の強い反対により、商業誌での発表は見送られた。そのため一昨年に作家の匿名、また作家を特定できるような個所の非公開を条件としてその一部をSAKANAFISHにて公表した。

今回は、作家自身の強い要望により、前回の続きの公開をするものである。

なお、前回、前々回、前々々回、前々々々回、前々々々々回、前々々々々々回、前々々々々々々回、前々々々々々々回、前々々々々々々々回掲載分を ご覧になりたい方はこちらへ。


12月10日

朝からひどく冷える。ストーブの灯油も切れ、買いに行く。ガソリンスタンドでなにやら饅頭など売っている。銘菓灯油饅頭だという。案の定灯油臭芬々たるものである。結局灯油を買うのを忘れ、智恵子(小)にひどく罵られる。夕食、油豆腐。

12月11日

機能にもましてひどく冷える。今日も灯油を買いに行く。監視役として智恵子(小)もついてくるという。灯油2リットルと銘菓ハイオク煎餅を買う。なにやら鹿がついてくる。ハイオク鹿煎餅であったようだ。まこうとしているうちに森に迷い込む。目印として灯油を撒けと智恵子(小)が言うので撒く。幸い山小屋を発見したので就寝。意外と暖かい。夕食、ハイオク鹿煎餅。
12月12日

山小屋にて起床。ひどく暖かいが、すでに灯油を全て撒いてしまったので買いに行く。銘菓ナフサ最中と灯油2リットルを買う。二日振りに風呂に入るがひどく汚れている。昔、山歩きした際の比ではない。山林まで環境汚染が侵入しているのかとひどく暗鬱とした思いにとらわれる。

12月13日

終日執筆。矢張りストーブは暖かい。智恵子(小)が灯油を買いに行くという。小さいのに誠に感心である。夕刻、「抱月」にて牡蠣蕎麦。

12月14日

終日執筆。ストーブにて餅など焼く。Y(編集部判断により仮名)が正月に咽喉に餅を詰まらせた話を思い出す。Yは文壇の同期であるのだ。まだまだ若いつもりでいるが、老いは確実に忍び寄っているのだなとも思う。

12月15日

終日執筆。ストーブの灯油が少なくなっているので明日買いに行こうと思う。

12月16日

灯油を買いに行くが、近所のガソリンスタンドが焼け落ちている。くだらない菓子など作った報いであろうか。仕方なく、やや遠くのガソリンスタンドまで行くが、そこも焼け落ちている。己が石油で己を焼くなど物騒極まりない。夕刻になって、灯油売り屋台を発見。ようやく帰る。ストーブの熱が身にしみる。

12月17日

智恵子(小)の姿が見えない。そういえば先日灯油を買いに行ったきりである。また石油を買いに行く際にでも探そうかと思う。終日執筆。

12月18日

終日執筆。矢張りストーブは暖かい。午後に古書店「阿呆船」より店主蠣崎来訪。「牧洋二の朴訥詩集」矢張り見つからず。引き続き捜索を頼む。

12月19日

終日執筆。ストーブにて芋を焼く。郷愁というものにすがって老人は生きるのか、と苦笑。夕刻、「抱月」で鴨しゃぶ。

12月20日

終日執筆。ストーブの目盛りを弱にする。省エネ機構頼み。

12月21日

終日執筆。昼頃、灯油がついに切れるが、毛布をかぶってやり過ごす。

12月22日

終日執筆。ひどく冷える。歯の根も合わず。

12月23日

昼頃、やむを得ず買いに行こうとするが、藪橘来訪。実によい時間に来てくれた。友よ。灯油を買いに行けというが断られる。馬鹿め。怒りで体を温めてやり過ごす。

12月24日

昼まで布団の中で過ごすが、やむを得ず起き出す。灯油を買いに行かねばならないが、行けども行けども焼野原。

12月25日

基督降誕祭。相も変わらず焼野原。終戦の日のことを思い出すが、ひどく冷えるのには閉口。ガソリンスタンドも灯油売りも見つからず。

12月26日

焼野原彷徨。炭は意外と美味。

12月27日

焼野原の遠くに何かが見えるあれは智…恵…子…

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