レムミ助手
えっと、本日はお日柄もよく、ご来賓の方々に当研究所分室の怪人の説明をさせていただくことになりましたことは、私生涯の光栄にございます。

獅子ヶ島委員
いや、それはいいんだけどね。双葉博士はどうしたんだね。

レムミ助手
そこ。実は博士は風邪をひいたんでね。
風邪と言うのは上気道のウィルス感染により発熱・頭痛・鼻汁・全身倦怠などを引き起こす病気で、昔から風邪は百病の長とも言われるのです。

高橋委員
酒と間違ってませんか?

レムミ助手
病気帝国の皇帝にのぼりつめた風邪は、大腸カタル、カリニ肺炎、自律神経失調症などの病気将軍を率いて近隣の国々を襲い…

獅子ヶ島委員
なにをいっとるんだね。

望月委員
さすがは双葉博士が開発したロボットだということですか。

高橋委員

まあしょうがないですね。


レムミ助手
と、そんなわけで今日は博士に代わって怪人の説明をさせていただきますのでよろしくお願いいたしまっす。


獅子ヶ島委員

やれやれ、大丈夫かね。

高橋委員
博士はいちおう博士ですから形式を取るだけのことはできたんですけどねえ。

レムミ助手
『魚人ナマズクロペッパーは、ナマズと黒胡椒と機械の三種合成怪人です。攻撃としては黒胡椒を相手に投げつけるもので、催涙弾効果などが見込まれます。また、本体の重量のわりには軽快な動きを持ち、敵怪人への体当たりなどの攻撃も可能です。』

獅子ヶ島委員
おお、ちゃんとできるんだな。

レムミ助手
もちろんっす。

高橋委員
大きさのわりにどうしてそんなに重いんですか。

レムミ助手
『大航海時代が始まるまでは東西貿易はシルクロードなどの陸路を経由するほかありませんでした。そして中東一帯に成立したイスラム国家との対立などもあり、交易はベネチアなどの勢力が独占することとなりました』

獅子ヶ島委員
あれ?壊れたかな?

レムミ助手
『この状況から脱し、自らの手で商品を獲得しようという動きが出てきました。その動きが大航海時代です。エンリケ航海王子、バスコ・ダ・ガマ、コロンブス、マゼランに代表されるこの動きは、元々ヨーロッパ諸国が待望する東アジアの富、金、銀、絹織物、陶器、そして』

高橋委員
ああ、ここで胡椒とつながるんですね。

レムミ助手
『冷蔵技術もない当時、肉の貯蔵法としては乾燥、燻製、塩蔵の方法しかありませんでした。しかしこれらの方法をもってしても、長期保存した肉はにおいがきつく、とてもおいしいものではありませんでした。そこで香辛料としての胡椒が重宝されたのです。しかしヨーロッパでは胡椒は産出せず、インド・東南アジアからの交易に頼るほかはありませんでした。』

獅子ヶ島委員
話の順番がごっちゃごちゃじゃないか。

レムミ助手
『そのため、当時のヨーロッパでは、胡椒一粒は黄金一粒、といわれ、胡椒と金が同じ価格で取引されたとも言われています。』

高橋委員
ああ、それで重いんですか。

望月委員
しかし、怪人にこれだけの重さをもたせるために金を使うというのはコスト面から見ても不可能ですが。

レムミ助手
そのへんは鉛で代用してまっす。

高橋委員

なるほど。


レムミ助手
人間の産業が排出する鉛が野生動物であるナマズの体内に蓄積されていっているという、社会風刺の一面も合わせもちまっす。

獅子ヶ島委員
そんな一面はいいんだがね。

望月委員
ほかに何かありますか。

レムミ助手

問題点としてはナマズは魚介類なのだから、黒胡椒よりも白胡椒のほうがあうということでっす。


望月委員
そうですね、一般的には魚には白胡椒ですね。

レムミ助手
そういう一般常識をわきまえていない博士が問題でっす。

高橋委員
同感ですね。

レムミ助手
そんなことだから今日も白衣の特売日のほうに行って大事なこの審査会を休んだりするんでっす。

望月委員
…風邪じゃなかったんですか?

レムミ助手
風邪っす。風邪ということになっていまっす。風邪であるようにみんなに思わせてくれといわれていまっす。

高橋委員
バイトじゃないんですから。

レムミ助手

そういう博士が作ったものなので高出力時の主動力のパワーダウン発生の可能性、黒胡椒投球時に発生する大きな隙、基本OSの29ヶ所におよぶセキュリティの脆弱性、事故発生時の鉛汚染の発生の懸念、ナマズ料理を出す近所の中華料理屋店員との癒着などの問題を抱えていることもまた事実っす。


望月委員
…問題だらけですね。

獅子ヶ島委員
博士はそれを知ってるのかね?

高橋委員
どっちにしても問題でしょう。
…あれ?

双葉博士
ゴホンゴホン…す、すいません…。ちょっと体調が悪くてレムミにかわってもらってたんですが…
レムミ、うまく説明できましたか…?

望月委員
ええ。

獅子ヶ島委員
それはもう。

高橋委員
博士のお芝居よりはるかに。

双葉博士
え。

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