電蝉アクセレイドシケイダ審査議事録

双葉博士	今回は自信作です。
高橋委員	今回も、ですか。
双葉博士	今年になってから私もいろいろと考えまして。今までどうして採用されなかったかっていうと、それは方向性が間違っていたからじゃないかと。
高橋委員	方向性だけだったらよかったんですけどね。
双葉博士	こういう怪人を考えるには、まずどういう怪人が求められているかのニーズを考えないといけないと。
望月委員	あの、確かに当委員会では、博士たちに比較的自由な研究・開発を行なえるようにしていますが、あくまで治安対策用の怪人という方向性だけはあるんですよ。
双葉博士	…そうでしたっけ。
獅子ヶ島委員	やっぱりねえ（笑）
高橋委員	あんまり方向性を見失うと委員会除名ということにもなりかねませんよ。
双葉博士	除名っ！
望月委員	まあ双葉博士はまだ全体的に見てもまだましなほうですから除名にまではいかないかと。
獅子ヶ島委員	ほかがひどいもんだからねえ（笑）
高橋委員	委員会廃止したほうがいいんじゃないですか。
双葉博士	え、あのーいいですかそのあの。
望月委員	いいですよ、どうぞ。
双葉博士	えーと、あの、その、今回はまあ、ある意味治安用にも応用が利くというか…その…。
高橋委員	本来は違うんですね。
双葉博士	最近は治安を乱す怪人を世界規模で取引するテロ怪人ネットワークみたいなものもあるじゃないですか。
望月委員	ありますね。それは確かに大きな問題ですよ。この間のサミットでも重要議題でした。
双葉博士	そういったネットワークの動きを監視し、封じ込めるのも治安対策にとって重要なことではないでしょうか。
獅子ヶ島委員	いつになく社会派だねえ（笑）。
レムミ助手	ほんとに。今思いついたわりにはよくできた理屈でっす。
双葉博士	レムミッ！
高橋委員	いいんですよ、みんな気づいてますから。
双葉博士	……えーと、こういった世界的なネットワークの手先となっているのが、政府や軍、企業などの怪人情報を盗み出そうとする産業スパイです。
望月委員	たしかに情報漏洩も大きな問題になっていますからね。
双葉博士	そこで！これです！たとえば産業スパイが天井の穴から下をのぞいているときに、さっとその産業スパイに取り付き、産業スパイの足取りをつかめる電蝉アクセレイドシケイダ！
望月委員	防諜用ですか。
双葉博士	そうです！ただ単に産業スパイを捕まえるのでは、そういったネットワーク全体を破壊することはできません！しかし組織内に工作員を潜入させるのは危険です。しかしこういった目立たないものであれば、危険を最小限にしながら、大きな成果を得ることができるのです！
獅子ヶ島委員	なるほどねえ（笑）。ひとつ聞きたいんだがね、どうしてセミの形をしてるんだね。
双葉博士	それはやはり目立たないというところで、なにしろセミは世界中のどこにでもいますし。
望月委員	そうなんですか。
双葉博士	たとえばアリとキリギリスの話は、ヨーロッパではアリとセミという話になっています。キリギリスがいないところにでもいるセミ。つまりセミの広い分布を示しているのではないでしょうか。
高橋委員	なるんですか。
双葉博士	日本ではツクツクホウシはかつて「くつくつ法師」と鳴くとして親しまれてきました。日本の古代・中世・近代には仏教が社会的基盤のひとつとなっていましたから、法師、つまりお坊さんの名を鳴くセミが親しまれたのはいうまでもなく、ということはキリスト教が支配したヨーロッパでも「くつくつ枢機卿」や「つくつく法王」と鳴くセミが、イスラム教が支配した中東でも「つくつくカリフ」や「くつくつイスラム法学者」と鳴くセミが親しまれているに違いありません。
獅子ヶ島委員	なるほどなるほど（笑）。よくわかったよ（笑）。
高橋委員	そうですね、だいたいよくわかりましたが、ひとつ聞いていいですか。
双葉博士	はい。
高橋委員	その世界中で広く親しまれているセミですが、夏以外にもいるんですか。
双葉博士	あ。
獅子ヶ島委員	あとやっぱりセミが体にとまったら気づくねえ（笑）
望月委員	セミでなかったらいいところにいっていたかもしれないんですがねえ。
双葉博士	いいじゃないですかセミでっ！沖縄県では子供のおやつになるぐらいポピュラーなんですよっ！
望月委員	そうですか、セミ以外のものにするんでしたら博士にも量産プロジェクトに参加していただけるんですが、やはり他の方に頼みましょうか。
双葉博士	え、あのそのべつにそんなにこだわってるわけじゃなくてその。
レムミ助手	バカヤロウッ！お前のこだわりはそんなもんかっ！そんな目の前のちっぽけな金で、お前は夢を売っちまうのかっ！セミを使うのが夢で博士になったっていうのは、あれは嘘なのかっ！
双葉博士	言ってないっ！言ってないっ！言ってなーい！